FARMER'S VOICE

一度島を出たから
気づけた豊かさ。

父から受け継いだ畑で育てる「はるか」と、記憶に残る香り

果樹園倶楽部 長谷部 真梨さん
  • はるか
はるかを手にほほえむ長谷部真梨さん

中島で生まれ育った長谷部真梨さん。かつては当たり前すぎて気づかなかった島の美しさに、一度外の世界を経験して戻ってきた今、心からの愛着を感じています。

そんな長谷部さんが亡きお父様から受け継いだ畑で大切に育て続けているのが、黄色い柑橘「はるか」。酸味がなく濃厚な甘みを持つ果実とは対照的に、皮からは少しビターですっきりとした香りがあふれます。

まず、中島で柑橘農家になろうと思ったきっかけを教えてください。

長谷部さん

実は、もともと私自身は農家になる予定も、すぐに島に帰る予定もなかったんです。きっかけは夫が「(農業を)やってもいい」と言い出したことでした。

私の実家が柑橘農家だったのですが、最初は覚悟がなくて、帰ってきてしばらくは別の仕事をしながら、ちっちゃい子供を育てつつ、徐々に手伝うようになって。本当に最初は「付き合い程度」のスタートだったんです(笑)。

でも、やっていくうちに農業の良いところが見えてきました。しんどいこともたくさんありますが、今は種類も増えて生活としても成り立っていますし、自由が利く部分もあります。そうして少しずつ「やっていこう」と思えるようになりました。

柑橘の木に手を伸ばす長谷部さん
高い枝の実を収穫する長谷部さん
春の陽ざしの中、はるかを一つずつ収穫していきます

今回は「はるか」という品種について伺います。この柑橘への思いを聞かせてください。

長谷部さん

はるかは、もともと親が作っていたものを受け継ぎました。今は他の新しい品種に人気が移りつつあるのですが、私個人としては、食べたら本当に美味しくて大好きな、すごく魅力のある柑橘です。ファンの方もいらっしゃるので、大切に作り続けたいなと思っています。

味は酸味がなくて、すっごく甘くて食べやすい。その甘い果実に対して、香りはちょっとビターな雰囲気も入った、本当にすっきりとした爽快感があるのが面白い特徴ですね。

はるかを栽培する中で、大変なことや工夫している点はありますか?

長谷部さん

はるかは、ある程度大きな実に育てないと、中に食べる部分が少なくなってしまうんです。だから実をつけすぎないように気をつけています。

あと、果実の表面が黒く変色しやすい特徴があって。中身は全然問題ないのに、見た目で商品価値が下がって弾かれてしまうことがあるんです。綺麗な黄色い色味を保つのが少し難しいですが、基本的には他と比べても手がかからず、作りやすい優秀な子なんですよ。

山を背にした畑で収穫する長谷部さん
山を背にした、果樹園倶楽部の畑

生まれ育った「中島」への思いを聞かせてください。

長谷部さん

ここで生まれ育ったので、若い頃はこれが当たり前の自然だと思っていて、むしろ島を出たいとすら思っていました。

でも、一度島を出て戻ってきたとき、「何にもない」と思っていた場所が、実はものすごく魅力に溢れた恵まれた場所なんだと気づいたんです。年齢を重ねたからこそ、四季折々の風景に癒されますし、何より太陽の暖かさや、ふとした瞬間の心地よい風、美しい景色に囲まれて外で働けることに、ものすごい幸せを感じています。

太陽の暖かさや、ふとした瞬間の心地よい風。
ここで外で働けることに、幸せを感じています。
かがんで低い枝の実を収穫する長谷部さん
収穫したはるかを手にする長谷部さん

このはるかがアロマ(精油)になることについてはどう思われますか?

長谷部さん

すごく嬉しいですね。柑橘って、食べるだけじゃない色々な楽しみ方があると思うんです。

香りはそのシーズンだけでなく、1年中いつでも楽しめますよね。それに、香りって嗅いだ瞬間に当時の風景や思い出がパッと蘇る「記憶に一番残るもの」だと思うので、そんな風に形を変えて残るなんて本当にいいな、と思います。

実がたくさんなった木の前で作業する長谷部さん

最後に、このはるかの香りをどんな人に届けたいですか?

長谷部さん

一番は、亡くなった父に届けたいですね。父から譲り受けた畑ですし、ちょうど「島とみかん」のみきちゃんたちが島に帰ってきてこういう新しい活動を始める、というお話が出てきた頃に入れ違いで他界してしまったので。

実は、私たち生産者って日々の作業に追われていて、じっくり香りを嗅ぐ余裕がなくて、意外と自分たちの柑橘の香りの素晴らしさに気づいていなかったりするんです。だから父の世代の年配の農家さんにも「実はこんな素敵な香りになるんだよ」って知ってほしい。

もちろん、島外の方や、都会で忙しく暮らす方、あるいは島を離れたご家族にも、この香りで中島の風景や小さい頃の思い出を感じてもらえたら嬉しいです。

はるかを手にする長谷部さん
はるかを差し出してほほえむ長谷部さん